------ 労働時間法制の見直しと労働契約法制定 -----
労働政策審議会労働条件分科会 労働者側委員 小 山 正 樹(JAM副書記長)
今回の労働時間法制の見直しの最大の問題は、「自律的労働時間制度」の創設。これは一定条件の労働者(表参照)を労働時間規制の対象から除外して、いくら残業をしても、経営者は残業代を支払わなくてもなくてもいいという制度。
このような制度がいったん導入されると、例えば、労働組合がない職場では、拡大解釈され働く者に大きな不利益を与える恐れがある。
私たちはこの制度の導入を絶対に許すことはできない。7月の中間とりまとめ、12月の最終報告へ、大きく運動を盛り上げ、阻止しよう。
今回の労働時間法制の見直しでは、労働時間規制の新たな適用除外制度の導入という重大な法改正が含まれている。また労働契約法は、戦後の労働法体系になかった労働契約に関する独立した法制度の新たな制定である。
労働条件分科会では、公労使の激しい議論が交わされており、7月の「中間とりまとめ」で大きな山場を迎える。6月13日の労働条件分科会では、厚生労働省の事務局案が提示された。
労働時間法制の見直しについて厚労省案では、時間外労働の割増率を、一定の時間(30時間程度)を超えた時間外労働の割増賃金について、現行の25%を50%とするなどの改善点も示されている。
しかし最大の問題は、労働時間規制の新しい適用除外制度(日本版ホワイトカラーイグゼンプション制度)の導入が提起されていることである。
これは「自律的労働にふさわしい制度の創設」と称して、一定条件の労働者について労働時間規制の適用を除外して、残業代を支払わない制度を新たに導入しようとするものだ。
かつてより経営者団体や規制緩和論者が、米国のホワイトカラーイグゼンプション制度を真似て、残業代を支払わない制度を日本にも導入することを求めていた。
すでに労働基準法では、専門業務型裁量労働制、企画業務型裁量労働制、フレックスタイム制など労働時間の弾力化が進められている。何のために新たな適用除外制度(自律的労働時間制度)が必要なのであろうか。
長時間労働が、過労死・過労自殺をまねき、メンタルヘルス不調者の増大、仕事と家庭の両立困難などを生じさせている。そのなかで、新たな労働時間規制の適用除外制度を設けることは、長時間労働を温存し、隠蔽する危険をもつものである。
これまでの労働法には、募集・採用、出向・配転、労働条件の変更、解雇・退職までの労働者と使用者の権利・義務を定めた法律がなかったため、裁判所の判決で紛争の解決が行われてきた。そこで連合は、2001年に労働契約法の骨子案を示し、労働契約法の制定を求め続けてきた。労働契約法は必要だが、今回、厚労省が示した案は、連合案とは大きく食い違い、労働者側にとって不利益となる大きな問題点がある。
一つは、就業規則による労働条件変更のルール化。使用者が一方的に定めることができる就業規則の変更で、労働条件の不利益変更などが行われやすくなる恐れがある。
また、過半数労働組合のない事業場で、労使委員会に労働組合と同じような役割を与えようとしていることである。
この他、解雇の金銭解決制度の導入の問題などだ。
厚労省は、労働条件分科会で、7月に中間とりまとめ、12月に最終報告、そして来年の通常国会で法案提出を予定している。
労働条件分科会では、12月まで公・労・使の間で厳しい議論が展開されていくことになる。労働者代表の委員は、労働者のための労働時間法制の改善、労働者のための労働契約法の制定を目指して、奮闘していくが、今後の運動と世論の盛り上がりが、審議の行方を左右する。
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労働基準法改正による労働時間法制の見直しと、新たな労働契約法制定についての検討が、厚生労働省の労働政策審議会労働条件分科会で行われている。労働条件分科会は公益・労働者・使用者(公・労・使)の三者を代表する委員、各7人で構成され、この労働者代表委員として、JAMの小山副書記長が参加している。 |
労働契約及び労働時間法制の在り方について(案) <06年6月13日厚生労働省事務局提出>
【労働時間法制】(労働基準法改正)
時間外労働の削減等 | 労働者の健康確保のための休日 | @ | 一定時間数(月40時間程度)を超えて時間外労働させた場合、健康確保のための休日(法定休日)を1ヶ月以内に付与する義務。 |
時間外労働抑制策としての割増賃金の引上げ | A | 一定時間数(月30時間程度)を超えて時間外労働させた場合、割増賃金の割増率を引き上げる。(50%) | |
その他の実効性確保策 | B | 罰則引き上げ | |
年次有給休暇制度の見直し | 使用者による時季の聴取 | @ | 計画付与制度を導入していない事業所の使用者は、年次有給休暇のうち一定日数(5日程度)を、労働者から時季について意見を聴いた上で、付与しなければならない。 |
時間単位の年次有給休暇 | A | 日数を限定し(5日程度)、時間単位で年次有給休暇を取得することができる。(労使協定で運用を取り決めた事業場) | |
退職時年休手当清算 | B | (退職時に未消化の年次有給休暇がある場合、何らかの手当てを支払わなければならないとすることについては、慎重に検討) | |
その他の現行労働時間制度の見直し | ○ | 事業場外みなし制度について、必要な見直しを検討する | |
自律的労働にふさわしい制度の創設 | 対象労働者の要件等 | @ | @)使用者から具体的な労働時間の配分の指示を受けることがない者、および使用者から業務の追加の指示があった場合は既存の業務との調整ができる者(追加の業務指示について一定範囲で拒絶できる者、労使で業務量を計画的に調整できる仕組みの対象となる者) A)1年間を通じて週休2日相当の休日があること。一定日数以上の連続する特別休暇があることなど健康チェックの仕組みが適用される者(医師による面接指導など) B)出勤日または休日が1年間を通じ確定し、出勤日における出退勤の確認が確実に実施されている者 C)年間の賃金額が一定水準以上の額である者 |
A | 対象労働者と使用者が個別の労働契約で書面により合意していること | ||
B | 物の製造業務に従事する者等を対象とならないものに指定する | ||
導入要件等 | C | 制度導入については、労使の実質的な協議に基づく合意により決定する | |
D | 事業場における対象者の範囲は、法の要件内で、労使の実質的な協議に基づく合意により定める(対象範囲を当該事業場の全労働者の一定範囲以内とすることについては、慎重に検討) | ||
E | 年収が特に高い労働者については、労使協議なしに対象に含めることができる | ||
F | 対象労働者は、いつでも通常の労働時間管理に戻ることができる | ||
効 果 | G | 労基法第35条(法定休日)および第39条(年次有給休暇)は適用 その他の労働時間、休憩、休日の労働、割増賃金・深夜業の割増賃金に関する規定は適用しない | |
適正な運用を確保するための措置等 | H | 就業規則において、対象労働者に適用される賃金制度が他の労働者と明確に区分されていること。賃金台帳にも個別に明示すること | |
I | @)苦情処理制度を設けることの義務付け A)重大な違背があった場合は、年収に一定の割合を乗じた補償金を対象労働者に支払うものとする B)要件の違背の場合、行政官庁は、改善命令を発することができる |
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J | 別途、厳正さ履行確保を図る | ||
管理監督者の範囲等の見直し | |||
現行裁量労働制の見直し |