投資に関して
現在交渉中の環太平洋経済連携協定の交渉参加国の何百万人もの働く男女を代表する労働組合として、現在行われている貿易交渉について懸念を表明する。我われは貿易協定の原則に反対するものではない。ただし、その協定が均衡が取れたもので、良好な雇用の創造を促進し、働く人々の利益と権利を守り、健康的な環境をもたらすものでなければ支持できない。過去の貿易協定において一番問題だったことの一つが一般市民や規制当局を犠牲にして過剰な権利を多国籍企業に与える投資条項であった。我われの多くは過去の交渉においてこの問題について真剣な懸念を表明し、十分な資料を提出してそれを裏付けてきたが、最終的な協定内容では無視されてきた。このようなことは再びあってはならない。
TPPを真に「21世紀にふさわしい」貿易協定とするために、以下に署名した労働組合はTPPの投資条項を以下のように変えなければならないと考えている。
1 投資家と国家間の紛争解決手続きを国家間の機関に置き換えること
過去の貿易協定や二国間の投資協定の投資条項に規定されている投資家と国家の間の紛争解決制度(ISDR)は現在TPP交渉の中でも提案されており、大きな懸念の的となり続けている。ISDRでは企業が政府と対等に扱われており、政府の行政的、法律的、司法的な決定に対して企業が説明責任のない国際仲裁所に直接訴えることができ、上告制度もない。さらに国際裁判所の判事と異なり、国際的な裁定官は国内法や紛争の社会的価値についての理解や専門知識に欠けることが多く、その結果その社会的価値を危うくする恐れがある。さらにISDRにより、資本は規制が発達した司法的な環境から逃れてより投機的でハイリスクな(そしてしばしば元手のかからない)環境に移り利潤を最大化しようとする誘因を提供されることになる。したがって、TPPはこれに替わり政府間の紛争解決制度を設けるべきであり、問題を抱える企業の代理として両国が法律的な議論を展開する公開の手続きにより紛争を解決することができる。さらにこれにより公益を保護し決定するという政府の決定的な役割を保障できるという点でも重要である。
2010年に国連の貿易開発会議UNCTADはISDRの問題点の詳細な報告
(訳注1) を出し、対案を提案したが、その中で調停や仲裁などの平和的な解決方法や交渉を通じた解決努力などの代替的な紛争解決方法や政府と企業の間の対立が公式の紛争になる前に防ぐ政策などが挙げられている。
さらに重要なのはTPPの中でISDRを設けることにオーストラリア政府が既に反対を表明していることである。我われはこの対応を評価し、他の諸国もTPPの中にISDRを含めようとするいかなる試みにも反対するよう強く要請する。
2 投資家の最低待遇基準
慣習国際法では外国投資家とその投資に関連して以下の限られた範囲でしか最低待遇基準を認めていない。
1)外国投資家と投資に対して国内安全保障と警察の保護を与える義務、
2)司法や行政手続きにおいて「不当に不正」で「とてつもなく不当」な行為により「正義を否定」することのない義務、
3)収用に対して補償する義務。
投資や「恣意的」な行動についての投資家の「期待」を妨害するような行為を最低待遇基準は禁止していない。このような国際法の解釈は投資に関する条項の条文に取り入れられるべきだと考えており、そのことにより最低待遇基準の拡大解釈により慣習国際法が認めるより投資家の権利を大幅に拡大することを防止すべきである。
3 投資の定義
最近の貿易協定での「投資」の定義は不動産の権利や例えば米国法により保護されている財産のその他の特定利益よりも広範であり、「投資家が直接あるいは間接に所有しあるいは管理する全ての資産で投資の性格を有し、資本などの資産の投下、利益や利潤の見込み、危険の引き受けなどの性格」を含む。したがって交渉メンバーが投資の定義を狭め、利益や利潤の見込みと危険の引き受けを除外するよう強く要請する。さらに、先物売買、オプション、デリバティブなどの金融商品には特別の保護を与えないよう強く要請する。
また、投資条項は外国投資家に他国での投資に先立って追加的な保護を与えてはならない。
4 間接収用
一部の貿易協定では最近改革が行われたにもかかわらず(まだ実施はされてはいない)、貿易協定での間接収用の条項が一部のTPP参加国での法制よりも外国投資家により大きな権利を与えるように適用される余地を残している。したがってTPPでは間接収用は政府が間接的に投資を収用するか所有権を移転する場合にのみ発生し、政府の行為により投資の収益率を低下させるだけの場合には適用されないことを明確にしなければならない。この観点は慣習国際法の原則を構成する政府の一般的な慣習と一致するものである。
5 内国民待遇
自由貿易協定での内国民待遇の反差別原則は広範囲なものであり、国際仲裁所での解釈により環境、労働安全衛生、労働、先住民などの適切な公的利益保護に否定的な影響を及ぼす余地が残っている。表面的あるいは意図的な差別がなくても「事実上の」差別を生む規制行為を禁止するように反差別原則を国際仲裁所が解釈する可能性がある。例えば、環境を保護する中立的な規制行為が外国投資家に不釣合いな影響を及ぼす場合に反差別原則に抵触すると解釈される可能性がある。したがって、交渉国は内国民待遇を本来差別的意図をもって執行される規制措置の事例に限定するべきである。さらに、当事国は地域社会の利益や持続可能な開発を考慮して、これらの原則に対して現存している例外が認められ、これらの原則を変更する柔軟性を保持することが認められるべきである。
6 労働
TPP交渉国は労働法や規則は合法的な公共福祉目的の中に含まれることを保障すべきであるし、公共福祉目的のための非差別的規制は間接収用や最低待遇基準の違反に当らない。一般的に、労働法や規則の改善は投資条項による訴訟の原因とは認められるべきではないし、紛争の場合には労働条項が優先されるべきである。
7 投資、金融サービス、金融安定性
投資と金融サービスの間には緊密な関係がある。投資に関する条項は金融システムの安定性と思慮深い必要性に基づいて政府当局が行動する権利を保護すべきである。投資家が利潤、資本、その他の目的で資金を送付したり受領したりする権利を保障する条項は金融の不安定性を防止したり、国際収支などの危機が起こった場合に行動する政府当局の権限に優先してはならない。その権限には資本取引と外国為替管理を行使する権限と、ハイリスクの金融商品と取引慣行を制限したり防止したりする権限を含む。投資と金融サービスとの関係は投資家と国家の間の紛争解決制度の危険性を一層際立たせることになる。
8 税金
投資に関する条項は参加国当局が取る課税措置には適用されるべきではない。課税政策が外国投資の価値や収益性を低下させる、あるいは不公正で不平等取扱になる、ということを理由に提訴される恐れなしに課税政策を維持し、あるいは変更する権限を各国政府は保持すべきである。
以上の懸念に直ちに対応することを強く要請し、将来の交渉会議で取り組まれるよう期待する。