環太平洋経済連携協定 その懸念の理由

ニュージーランド労働組合評議会(NZCTU)

 環太平洋経済連携協定(TPP)は現在ニュージーランド、米国とその他7カ国で交渉が続いているが、単なる貿易協定ではない。貿易はその小さな一部に過ぎない。NZCTUはTPPにより、労働者と大半の国民の利害のためにニュージーランド政府が行動することが将来できなくなる、と心配している。米国がこれまで締結してきた貿易協定はニュージーランドの国民が何度も投票により反対してきた政策を強制するものであり、選択する機会が与えられれば反対するであろう。

 TPPとは何か?

 TPPは既にあるニュージーランド、シンガポール、チリ、ブルネイの間に結ばれている貿易協定を拡大するものである。これまでに米国、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシアが交渉に参加している。日本カナダなども関心を示しており、最終的にはアジア太平洋地域の大半を含むことになるかも知れない。米国は2011年11末までの締結を望んでいる。

 市場開放はニュージーランドにとって良いことではないのか?

 TPPは貿易に関することだけ扱っているのではない。海外投資のルール、外国企業がわが国政府を訴える易くする、国内サービスを一層国際競争にさらす、規制の権限、医薬品の価格、知的財産権、国内企業育成のために政府調達を行うことを禁止する、ことなどが含まれている。
 ニュージーランドにとって貿易上の大きな関心は農業であり、米国への乳製品などの輸出を拡大することである。しかし、米国の利害は強大であり、これに徹底して抵抗するであろう。オーストラリアの輸出に携わる人々は米国との自由貿易協定の結果について大変不満であった。 (原注1) ニュージーランドがオーストラリアより有利にできると考えるのは間違いだ。大した利益を得ないにもかかわらず、その犠牲を払わなければならない。以下はその犠牲の例である。

 海外からの投資に対する規制の縮小

 多くのニュージーランド国民は国土が外国に所有されることを心配している。民営化により巨大な海外企業が買収したり、資本買収したりすることで国民の利益が害されないよう規制することが困難になってきている。米国は残っている規制をさらに撤廃しようとしており、最近ニュージーランド政府が発表した規制策も含めて無くそうしている。

 海外投資家の特権

 米国の標準的な投資協定では海外投資家に政府を民間の紛争仲裁所に訴える権利を与えている。この規定は海外投資家に有利であり、政府は企業の反対を恐れて無力化する。(原注2)

 医薬品の価格高騰

 米国の巨大な医薬品会社はニュージーランド医薬品管理庁が医薬品の価格を低く抑えていることが気に食わない。米国はオーストラリアでも同様な政策に抵抗しようとしたし、またTPPでもやろうとしている。

 国内製品への優遇廃止

 経済発展を支える有力な方法は政府の購買力を使って国内製造品を優先的に購入することである。既にある一部の貿易協定では外国企業と国内企業に同じ基準で契約機会を与えることを政府に求めている。TPPはそれをさらに拡大しようとしている。

 公共サービスの民営化と金融規制の弱体化

 TPPは今日の経済を成り立たせているサービスの多くを海外競争に自由化しようとする。これにより公共サービスは公民連携(PPP)などの民営化の圧力が高まり、民営化を元に戻すことが困難になる 。(原注3) TPPはビジネスマンが仕事のため国と国の間を一時的に移動する問題についても決めようとしている。これは貿易協定にはふさわしくない。
 銀行などの金融サービスも交渉の焦点になる。それにより世界的な金融危機を生んだ危険な取引を管理しようとする力を弱め、為替相場と短期資金の出入りを管理するための政策手段を制限することになるかも知れない。

 消費者と環境の保護

 有害な製品の原産国を特定してその輸入を阻止し、遺伝子組み換え食品の輸入を防ぐ必要がある。米国の企業はわが国の遺伝子組み換え規制と食品表示制度を破りたいと思っている。農業やわが国固有品種に被害をもたらす害虫や病気の侵入に対して十分な保護が必要である。TPPは企業利益が環境を犠牲にしないことを保障する実施可能なルールを定めることが問われている。

 労働者の権利

 ワーナー社は映画ホピットのニュージーランドでの製作を取りやめると脅かすことにより、労働関係法を改正させ、映画産業労働者から国際的に認められている権利を剥奪した。TPPのような貿易協定は、労働者の権利を国際的な入札に掛けて切り下げ、全ての国の労働者が損をするようなことを防がなければならない。協定のその他の部分と同じように実施可能な規定により労働者の権利保護を定める必要がある。

 公開性

 これらの協定は秘密裏に交渉されており、全てが合意されるまでその文言は公開されない。他の多くの法律よりも重要な内容であり、その作成途中でも国民の検討と批評の対象とすべきである。

 NZCTUの見解

 我われは貿易に反対しているのではない。貿易により雇用が生まれるが、貿易は公正なものでなければならない。しかし、これまで貿易は労働者にとって公正なものではなかった。しかも環太平洋経済連携協定は貿易以外の事項を含んでいる。貿易による利益はとるに足らない。先に述べたような危険はないと保障されない限り、我われは環太平洋経済連携協定に反対である。環太平洋経済連携協定参加国の大半のナショナルセンターと協力しており、広い範囲の課題に関して共通の認識を持っている。
詳細についてはウェブサイトを参照されたい。 http://union.org.nz/tpp

 ニュージーランドの主権が譲渡され、ニュージーランド国民の利益を守る法律を作る権利が奪われるのを座して認めることはできない。

2010年5月


原注
  1.  米国との貿易協定においてオーストラリアは砂糖の輸出が認められなかった。牛肉、乳製品、羊肉、ワインの輸出は12年から17年間先送りされた。米国内の農業への補助金は継続している。独立した経済研究のほとんどはこの協定がオーストラリアに不利な影響をもたらすと分析している。最近の調査でもオーストラリア企業は余り利益を得ていないと感じている。

  2.  北米と南米では紛争仲裁所により政府は企業に何億ドルもの賠償金を支払い、法律規則の変更を強いられた。例えば、メキシコ政府が米国のメタルクラッド社に飲料水の水源を脅かす廃棄物処理場を閉鎖することを命じたのに対して、政府は1560万ドルの損害賠償を命ぜられた。同様の命令はカナダ、アルゼンチン政府などにも出された。最近ではタバコの多国籍企業フィリップ・モリス社はウルグァイ政府に損害賠償と政策の停止を求める申し立てを行った。

  3.  攻撃の対象とされるのは医療、公務災害、教育、郵政、水道、廃棄物、社会福祉、交通、道路、電気ガスなどの公共サービスである。地方自治体の事業計画を妨害し、非営利サービス提供者を優遇する権利を妨害する。競争に関する分野でもTPPにより公的サービスの民営化が強制され、Fonterraのような協同組合の事業が打撃を受けるかも知れない。