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ミクロン単位を測定する「目」
会社の製造部門は、顧客の規格にあった製品を作り出す。製造工程で十分な管理のもと製造された製品でも、できあがった製品が規格を満たしているかどうか調べる必要がある。
その製品検査で卓越技能者(現代の名工)として評価された女性がいる。
工業用ミシン部品、各業界向け機械部品など、精密部品加工を業に発展してきた株式会社鈴民精密工業所は、1964年から「刃物」の製造に着手し、その製品の「切れ味」「精密度」で多くの信頼を得ており、特に工業ミシン用刃物は世界シェア5割を超える。
世界的シェアを誇る鈴民精密工業所の製品の最終検査を行う部署に勤務している大越栄美子さんは、勤続20年。現在所属している管理部検査課検査係には14年勤務している。
各製造部門でつくられた製品、工業用ミシンの刃物、半導体製造装置、実装機部品などの検査は、ノギス、マイクロメータ、ブロックゲージ、二次元・三次元測定機、万能投影機など、その他にも様々な測定器を駆使して行う。製品の精度を迅速にかつ正確にミクロン単位で測定するには、高度な測定技術を要する。
取材時に、実際の検査作業を見ができた。
ブロックゲージを製品の「みぞ」に合わせ、Vブロックに乗せ、「みぞ」の位置を測定。
次に、ハイトゲージに取り付けたダイヤルゲージで「みぞ」の位置に対する、「穴」の位置を測定し、「穴」の位置が上下左右にずれていないか検査する。
何種類もある測定器から図面をもとにその製品の検査にあうものを手早く見つけ、ねじ検棒を取り付け、基準の平面からの距離を測定し、「ねじ穴」の位置を検査する。
検査するそれぞれの製品にはいくつかの検査ポイントがあり、その検査手順は基本的マニュアルに定められ、それにそって検査を進めていく。
しかし、製品の形状は様々で、その形状を見て瞬時に検査手順を組み立てなくてはならない。経験と応用力が重要であり、大越さんの検査技能は機械部品検査に関して業界内では第一人者といわれている。
はじめに製品を手に取り、図面を見て何種類もある測定器の中からその製品の検査にあった測定器を決める。
三次元測定機、万能投影機などの測定装置は複雑な形の製品や検査した製品の0.001ミリ以下という微妙な誤差を確認するときのみ使うという。
鈴民精密工業所で製造する刃物の刃で一番細いものは0.4ミクロン。大越さんの鋭い目は0.001ミリの誤差も見逃さない。
高精度の製品も最後は「人の目」によって選別される。 |
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特級技能士は負けず嫌いの努力家
機械部品検査で優れた検査技能を持つ大越さんは、1997年度の国家技能士検定・機械検査作業で「特級機械検査技能士」を取得。
「特級機械検査技能士」は全国で600人ほどしかおらず、そのうち女性はわずか2、3人。
技能士資格を取ろうと思った理由は、先輩から誘いを受けたことがきっかけで、女性が多い職場なのに女性で資格を取ろうとする人が少なく、なぜ挑戦しないのかなと思っていたときだったらしい。2級技能士を合格してからは「自分の力がどこまで通用するのか知りたくなって1級・特級と挑戦しました」という。
「負けず嫌いのがんばり屋さん」という社内の評判通り、仕事が終わってからの実技の勉強や子供が寝静まってからの試験勉強と家事と仕事をこなしながら、持ち前の性格で難関を突破した。
また大越さんは、1999年11月に労働大臣表彰の「現代の名工」にも選ばれている。
「現代の名工」は、「それぞれの職業部門において、卓越した現役の技能者であり、広く技能者の模範とされるものである」として全国から選ばれる。昨年度は150人(うち女性12人)が選ばれ、受賞者の平均年齢が63.6歳という中で大越さんは女性では過去最年少の37歳で受賞。さらに女性特級機械検査技能士としても初選出。
男性の仕事と思われがちな機械分野で活躍している女性として、大変注目されている。
そんな大越さんも、検査係に配属された最初はいろいろ苦労があったらしい。
配属後、現場へ。「最初は図面の見方やマイクロメーターなどの器具の扱い方がわからなくて、先輩から教えてもらいながら必死で覚えました。数学が好きだったことが幸いしたのか、大変だったけど苦にはなりませんでした」という。
今の仕事については「一番最後の工程のため責任重大で、楽しいというよりも大変やりがいのある仕事。会社の信用にも関わるため、毎日ミスを犯さないように一つひとつ慎重に検査しています」と語った。
毎日の仕事の他にも、社内に設置されている「技能士委員会」のメンバーになっていて、そこで大越さんは、問題作成や実技指導を行い、後進の特に女性技能士の育成に携わっている。
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家族に支えられて
家事と仕事の両立については、「働くことには家族が理解してくれていて、家事・育児などには両親の助けがありました。また、自宅が会社から近いことや有給休暇が取りやすい職場なのでうまく両立できています」。
有給休暇には半日休暇もあり、子供の学校行事や急に病気になったとき、また、ちょっとした用事の時など半日休暇があるため助かっているという。
大越さん自身、「入社した頃は仕事は結婚したら当然やめるだろうなと思っていました」という。しかし、「職場が家事と仕事の両立ができる環境であったことや家族の理解もあって、結婚しても子供が産まれても仕事を続けていこう思いました」と語った。
趣味の生け花も師範の腕前。公私ともに技能の持ち主である。 |
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女性の力を最大限に
株式会社鈴民精密工業所 |
新潟県の寺泊町にある蒲髢ッ精密工業所は、1934年に設立。工業用ミシンの布や糸を切る刃物の世界的メーカー。精密部品、電子部品加工でも知られている。
製品は外国製のものと比べて倍近い価格にもかかわらず、世界ショア5割を超えるものもある。「高品質」で世界的に高い信用を得ている。
鈴民精密工業所のある新潟県三条・燕圏は業種転換のモデル地域であり、異業種交流が盛んな地域でもある。そこでも高度な加工技術が評価され、様々な業種から依頼を受け、写真用ラボ機、食品用・真空装置用バルブ部品などの生産を行う。
世界に通用する製品をつくる鈴民精密工業所の従業員は164人。組合員は男性66人、女性68人の合計134人。その女性達のほとんどが現場で働き、モノづくりに携わっている。
平均年齢も男性41.2歳、女性44歳と女性の年齢が高く、働き続ける女性が多い。
女性の力を現場の戦力として活用するため、また、お互いの技術の錬磨を高めるため、1983(昭和58)年に「社内認定技能士」制度をつくり、社内技能士認定委員会を設置し、そこで社内・国家の技能試験へ向けた問題集の作成や技術指導を行っている。
また、「作業の基礎知識」というテキストを作成し、従業員全員に配布。主に女性社員と新入社員を対象にして作成したもので、社員全員が技術を習得するための基礎テキストとなっている。部署が移動してもすぐにその仕事ができるように基本的な知識を身につけられる教材にしているという。
社内で年に1回試験を行い、合格者は「社内技能士」として認定される。女性の半数が社内技能士を取得し活躍している。
国家技能士は50人以上、その中で女性は特級1人、1級1人、2級2人と4人の技能士を輩出。国家・社内技能士の資格を持つ従業員は、全体の約半数。若年層への指導も欠くことなく、会社全体の取り組みとしている。
技能者の育成について「社内の技能伝承だけではなく、地域の技能伝承と思っている」と鈴木敬造社長は語った。
技術だけではなく、現場では職場の管理・改善活動にも女性たちが加わっている。
形状の違う数種類の製品を扱う部署では、製品によって仕事の手順を変えなくてはならないことがある。重い機械の下にキャスターをつけ、自在に移動ができるよう、ラインが変わっても作業がスムーズに行える工夫は女性のアイデアから生まれたものである。
「仕事でも女性が認められ、職場環境も女性に配慮したところがあるります。暖かみがあり、女性が働きやすく、居心地の良い会社です」と話してくれたのは、勤続30年の女性。
機械・金属関係のモノづくりの現場に女性の姿は少ないが、「鈴民の女性はよく働く」と山本忠男専務が話したように、ここでは生き生きとモノづくりに携わって働く女性達の姿がある。
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