※ グラフや表など見にくいものは、マウスでクリックすると、拡大画像が表示されます。元に戻すには、ブラウザの「戻る」ボタンで戻って下さい。
印刷用には次のpdfファイルをお使いください。JAM2012春闘Q&A.pdf
現在はデフレ基調であり、物価上昇率に基づくベアを要求するということにはなりません。また、企業から家計への、マクロ的な配分是正という考え方は、2006〜2008年までの「賃金改善」と共通していますが、全単組による統一要求基準ではないという点で、この間の「賃金改善」とも異なっています。基本的な考え方としては「労働条件の復元・格差是正」であり、下がった部分、低い部分を引き上げるというところに重点があります。
@賃金構造維持分の確保を基本とした賃金の是正・改善――があります。 賃金構造維持分が確保され、賃金水準の低下はないという単組でも、人材確保、初任給の引き上げ、賃金分布の偏り・歪み等に対しては、賃金改善・是正の要求を組み立てます。 また、人材確保の観点から格差是正に取り組むことも重要です。標準労働者要求基準、JAM一人前ミニマム基準を活用し、水準の引き上げや賃金カーブの整備に向けた取り組みを追求しましょう。 一時金の回復が進んでいない単組は、業績と過去の実績の十分な点検を行いながら回復を目指しましょう。 配分の是正に関わるもので、大きなものとしては次の課題もあります。 労働時間の短縮はベアと同じ効果を持ちます。 高齢者の雇用・所得確保に関する取り組みは、すぐにその原資を獲得するものではありませんが、将来の配分是正に含まれます。
A個別賃金要求と賃金制度確立に向けた取り組み
B企業内最賃協定の締結と引き上げ
C一時金水準の確保・向上
ここ数年間に賃金水準が下がったところ、あるいは下がったと推定出来る単組において、その実態を確認しながら、1年で賃金構造維持分とは別に、1,500円の是正を求めるというものです。その低下分が4,500円ならば3年で是正、7,500円ならば5年で是正するという計算です。
ちなみに、JAM組合員賃金全数調査によれば、2000年と2010年の2時点の賃金データが揃う300人未満の単組で、総原資に換算して※7,245円もの賃金低下が認められます。
※所定内賃金の年齢別平均を、2000年と2010年で比較する際に、全年齢加重平均の人員構成を2010年に統一して、両年の総原資を比較する方法による。
単年度の交渉結果が積み重なっていく中で、当初は視野になかった問題点が、後になって現れてくることの方がむしろ多いでしょう。特に賃金制度がない場合には、賃金構造維持分の確保と水準維持がなされているかどうかは、実態を点検しないと分かりません。過去に賃金構造維持分が確保できず、賃金水準が下がっていることが分かったという時に、その是正をはかっていくことは当然でしょう。
この十年間を振り返ってみると、中小では、賃金構造維持分が確保されてこなかった結果、全体的に水準が下がり、中堅・大手では、賃金制度変更の結果、中高年層の水準が下がった、という事態が推測されます。そこでは40歳以降の賃金水準の低下が共通する特徴となっていますが、この年齢層はもともと水準にバラツキが大きく、直接の是正の対象になりにくいので、水準の是正・回復の重点を30歳・35歳に置いて、そこを引き上げることによって、全体の水準低下に歯止めをかけていく取り組みが重要です。
そのように考える必要はありません。要求の組み立てに当たっては、当該単組・企業の事情を十分に考慮して下さい。とは言え、是正が必要な場合、出来るだけ早く着手することが重要です。あるいは、そうした是正課題は少しでも早く見つけ出し、労使で認識していくことが重要です。 何れにしても、是正すべき課題の放置は、労働者のモチベーションに決してよい影響を与えないことを踏まえ、経営に対する労働組合からの提言というスタンスから、出来る限り前向きな要求を組み立てていく必要があるでしょう。
この十年間に最も賃金水準が下がった年齢層は高年齢者層で、賃金の年功カーブはどこでも緩やかに寝かせられてきた経緯があります。十年前の高齢者の賃金水準に若年層や中堅層が追い付けない状態はかなり多くの単組に見受けられ、ある年齢層から上は定年まで現状を維持するかわりに、その後の年齢層の人が高齢層になった時、その賃金水準が昔より下がるという選択を迫られた単組は少なくありません。あるいは年齢に関係のない格付けの導入により年功制そのものが見直された場合もあります。
あまりに大きく下げてしまったり、中途採用時の格差が大きく残っているような場合は、その是正は検討すべき課題でしょう。
但し、かつて賃金水準が高かった高齢層は、若い時に今よりもずっと低い水準にあり、今の若年・中堅層を引き上げて行くと同時に、高齢者の賃金を下げないまでもカーブを寝かせていくことは、生涯賃金の均衡をはかるという意味で、一概に否定できない要素を持っています。 そうした諸点をふまえ、是正の考え方をはっきりさせて要求を組み立てていく必要があります。
JAM一人前ミニマム基準、標準労働者要求基準に示された個別賃金要求基準を活用した個別賃金の取り組みを進めます(【7.個別賃金の取り組みについて】参照)。
賃金構造維持分とは、賃金カーブの構造(形)を維持するために必要な原資のことで、賃金制度がある場合には、その内容に沿った、その年の、一人当たり昇給原資を指します。
2010年春季生活闘争においては、賃金制度がなく、賃金構造維持分確保の交渉が困難な中小に、賃金構造維持分(昇格原資を含むものが望ましい)又は個別賃金の水準を情報開示することが、JAMの共闘運動として重要な課題です。
賃金構造維持分とは、労働契約に約束されたことであり、交渉事項ではないとする単組もありますが、その場合でも、要求・回答の形式で集約を行ない、JAMとしての集計に入れ、「相場」形成に加えていきます。
役割や職務を重視する賃金制度で、いわゆる定期昇給がない、あるいは同一等級内での昇給は低く、昇給は主に昇格による、という場合に、賃金分布が、水平若しくは傾斜の緩い何本ものカーブになり、賃金構造維持分をカーブの傾斜(ピッチ)と考えると、その平均が1,000円前後の低額になってしまう場合があります。しかし、高卒・大卒の初任者賃金から出発して、30歳や35歳で子供を育てながら家庭を営むことを考えれば(共働きとしても)、10年で1万円程度しか昇給しないシステムというのは考えられません。昇給の軌跡は、個別賃金の実態として存在するので、標準的な労働者が辿っていく一般的なカーブを把握し、そこから賃金構造維持分を推計する、あるいは、30歳か35歳の個別賃金絶対額水準の開示を行うようにして下さい。
例:高卒直入者がほとんどいなくて、賃金制度がなく、毎年平均賃上げを積み上げてきたところでも、それなりの年功カーブが出来ています。この場合、基幹的な労働者の昇給カーブは、概ね各年齢の最高値をつなぐ線で見当をつけることが出来ます。このカーブとJAM一人前ミニマムの線を比較してみて、30歳又は35歳を基準に、是正目標と達成期間を定めます。賃金構造維持分は、上記の現行一人前労働者のカーブから算出し、さしあたり、それを全員の定昇相当分として要求・確保するようにします。
賃金分布には、現行一人前労働者よりも低い労働者が大勢います。それを是正するには、その人とその人以外との差が何に基づくかを検討する必要があります。その差が公正かどうかは、各人の仕事を尺度とする必要があります。同じ仕事をしていて勤続年数が異なるために差が付いているとすれば、それは是正の対象と考えるべきです(中途採用者の是正)。3年間など複数年の期間を目標として進めます。
(1)説明または諮問事項また、生産・販売計画、生産・販売状況などは、36協定の遵守や年休取得とも関わってきますので、時間外労働や年休取得状況の実態についても、報告を受け、問題点があれば、解決に向けた協議を行うべきでしょう。また、非正規労働者、使用者が異なる派遣労働者、請負労働者に関わる事項も、協議事項とすべきでしょう。@経営の基本計画に関する事項(3)協議決定事項
A年次計画に関する事項
B生産・販売計画ならびに生産・販売状況に関する事項
C経理ならびに財務状況に関する事項 (2)協議事項 @重要な財産取得ならびに処分に関する事項
A設備投資計画ならびに新技術の導入などに関する事項
B職制機構の制定、改廃に関する事項@会社の分割、合併、営業譲渡、事業所閉鎖・縮小・新設、海外における事業に関する事項
A人員計画に関する事項
B採用計画に関する事項
C異動、職種転換に関する事項
D教育に関する事項
E従業員の安全衛生、作業環境に関する事項
F従業員の福利厚生に関する事項
G公害防止など企業の社会的責任に関する事項
自民党政権下の2007年、最低賃金法が改正され、地域別最低賃金については、生活保護基準との整合性に配慮して決定する旨が法として定められました。次いで
、政権交代後の2010年6月には、政府の審議会である雇用戦略対話において、条件付きながら、2020年までに全国最低800円、全国平均1000円の最低賃金を目指すことが、政労使合意として確認されました。
このように自民党政権時代から最低賃金の引き上げが、政治的な課題に押し上げられてきたのは、非正規雇用の増大がかつてなく貧困層を増加させている、という事実が社会的な問題として懸念されるようになってきたからです。
連合は雇用戦略対話の合意を重視し、地域別最低賃金の積極的な引き上げに取り組み、成果をあげています。この流れは今後も途絶えさせてはならないものです。
企業内最賃協定は、@当該企業における組合員や従業員の賃金を下支えすると共に、
A最低賃金法に基づく産業別最低賃金の審議に影響を及ぼすことが出来る社会的な機能を有しています。
非正規労働者の処遇改善のために、労働協約の効果を社会的に広げることを制度趣旨する産別最賃の引き上げに向けに向け、あらゆる単組で、企業内最低賃金協定の締結と水準の引き上げが求められています。
@18歳以上最賃協定(基幹労働者=組合員を対象とした最賃協定)
A全従業員を対象とする最賃協定
B年齢別最賃協定(基幹労働者=組合員対象)
――があります。
2008年春季生活闘争までは、多くの企業で業績の回復が続き、それらを背景として月例賃金を中心とする賃金改善に取り組んできました。企業業績が低下していない以上は、使用者としても一時金を減額する根拠に乏しく、月例賃金の引き上げがそのまま年収の増加につながりました。
しかし、2009年からの企業業績の大幅で急激な低下と雇用情勢の悪化は、一時金を低下させる大きな圧力となり、一時金の低下による年収低下が、家計に大きな悪影響を与えています。従って、一時金要求については、生活防衛の観点から、企業業績の動向を踏まえながら、従前の基準を目安とした水準の維持・向上を目指します。
一時金には、企業業績に応じて、という性質もありますが、その一定部分は明らかに固定的な賃金となってきた実態があります。特に人事院勧告の基礎データとなっている民間給与実態調査によっても1970〜1998年まで約30年間の実績として年間4.8ヶ月を下回ることがなく、年間5ヶ月基準というのはそうした実績を守るという考え方に基づいています。
しかし、1998年以降の一時金支給月数の低下は著しく、JAMでは家計における一時金からの固定的支出部分を考慮し、最低でも年間4ヶ月を確保すべきという一時金ミニマム(要求とはリンクしない)を設定し、さらに全体がまずその基準に到達することを重視して、2004年以降は「最低到達目標」として年間4ヶ月も要求基準として取り組むこととしています(下グラフ参照)。
家計における一時金からの固定的支出部分として、生活実態アンケートや家計簿調査等により広く定着してきた数値として「年間4ヶ月」があります。
JAMでは組合員の生活実態に関するアンケート調査や家計調査を実施していないので、直接にそれを根拠付ける資料がありません。しかし、連合が最低賃金の取り組みのために、生計費の最低基準として試算している「連合・最低生計費の試算(埼玉県さいたま市版)」(2008年改訂)、同じく最低生計費として連合大阪が試算した「連合大阪リビングウェイジ(寝屋川市)」の年間最低収入に対し、JAMの年齢別最低賃金30歳の月例賃金水準(JAM一人前ミニマム80%水準を消費者物価指数地域差指数(県庁所在地)で地域別換算したもの)で月数を割り出すと(下表)、ほぼ16ヶ月となり、一時金の固定的支出部分として年間4ヶ月を推計することができます。
業績リンクといっても二通りの考え方があります。一つは、過去の一時金決定においても業績を無視していたわけではないことから、過去の業績と一時金支給月数との相関関係を明らかにして、今後の業績と一時金との関係式を作り上げる方法。
もう一つは、利益を株主、明日への投資、従業員への配分へ三分割して一時金を決定する方法。導入の必要がある場合には、考え方として第一の方法を追求します。
「時間外労働は本来臨時的なものとして必要最小限にとどめられるべきものであり、特別条項付き協定による限度時間を超える時間外労働は、その中でも特に例外的なものとして、労使の取組によって抑制されるべきものである。このため、労使の努力によって限度時間を超える時間外労働に係る割増賃金率を引き上げること等により、限度時間を超える時間外労働を抑制することとしたものである」割増率の引き上げは、時間外労働の削減に直接結びついていないにしても、法改正の目的として、時間外労働時間の抑制が明記されていること、割増率の引き上げと共に、時間外労働削減に向けた労使の取り組みが期されていることを重視すべきです。
との記載があります。
36協定届出の内容 : 一日8時間または週40時間を超える法定休日労働を含まない時間外労働時間
労働安全衛生法 : 週40時間を超える所定外労働時間(法定休日労働時間を含む)
A.通常の労働時間における労務コスト(時間当たり)厚生労働省の試算によれば、2002年の均衡割増率は 52.2% となっています。それとは別の資料(下記の通り)に基づく試算では、2005年の均衡割増率は 56.5% と試算できます。
(月例賃金+月例賃金以外の労働費用)/所定労働時間 =月例賃金×(1+X)/所定労働時間B.所定外労働時間における労務コスト(時間当たり)
※ X=月例賃金以外の労働費用/月例賃金
月例賃金×(1+所定外割増率)/所定労働時間
均衡割増率の試算例均衡割増率(%)=(一時金月割額+賃金以外の労働費用)/月例賃金×100
(1)賃金以外の労働費用(2)月例賃金→所定内給与額=302,000円 (2005年「賃金構造基本統計調査」・同上)
- 現金給与以外の労働費用の現金給与額に対する割合=23.4%(2005年の状態) (2006年「就労条件総合調査」・調査産業計)
- 一時金月割額=年間賞与額等905,200円/12ヶ月
- 現金給与総額=決まって支給する現金給与額+年間賞与額等/12ヶ月 =330,800円+905,200円/12ヶ月 (2005年「賃金構造基本統計調査」・産業計・企業規模計・男女計)
- 賃金以外の労働費用=(330,800円+905,200円/12ヶ月)×23.4/100
(3)均衡割増率:56.5% (905,200円/12+(330,800円+905,200円/12)×23.4/100)/302,000円×100=56.5%
組立、部品加工、営業、開発など職種を問わず、一定のまとまった範囲の仕事について、緊急時対応や不具合チェックなど定型的仕事を除いた部分についても自分で判断し責任をもって行っている労働者一人前労働者に到達する勤続年数は、職場や仕事によって異なります。早い場合には3年、さらに5年・7年・10年という場合もあるでしょう。そうした「一人前到達年数」は、職場ごと、仕事ごとに「もうおまえも一人前だな」という言葉が使われる時期に照合すると考えてよいでしょう。ただし、比較的短い勤続年数で「一人前」となる職場や仕事では、一人前到達年数がそれよりも長い場合と比べて、一人前労働者の賃金水準も低くなる、という関係も踏まえなくてはなりません。
1.30歳の要求ポイントを次の通り設定する。(1)ミニマム基準から下方へ2%刻みの水準を目安として、現行水準の上位に接近した水準を要求水準とする。2.現行カーブの水準は下げないことを原則とする。現行賃金カーブを維持するための賃金構造維持分を確保する。
(2)A組合の場合:22万円÷24万円=91.6% → 92%水準が目安となる。@24万円×92%=220,800円 要求ベア額:800円
A24万円×93%=223,200円 要求ベア額:3,200円
B24万円×94%=225,600円 要求ベア額:5,600円(1)賃金制度が整備されている単組は定期昇給分を含む賃金構造維持分3.30歳の要求水準を223,200円とすれば、その場合の賃金カーブ全体にわたる配分も決定する。
(2)賃金制度は整備されていないが賃金プロット図等によって賃金構造維持分が明らかに出来る単組は賃金構造維持分(「8.賃金構造維持分について」参照)
4.上記の是正が達成されたら、同様にして、さらに上位水準への到達を目指す。
賃金制度を持っていない多くの企業では、これまでも、あるいは現在も、平均賃上げ方式による交渉を行っています。
そこでは、原資の決定に軸足が置かれ、配分は経営に任せっきりで、一人ひとりの賃金水準について点検されていないことも少なくありません。それでも一定の賃上げが確保できれば、先輩の賃金水準に追いつくことが出来、結果として一定の賃金構造(賃金カーブ)が形成されてきました。
しかし、この間、特に2000年代前半期における賃上げ凍結や賃金構造維持分に満たない低額回答によって、先輩の賃金水準に追いつくことが出来ず、それまでの賃金構造が維持出来ない事態も数多く発生しています。
賃金構造維持分とは、そのように、それまでの賃金実態カーブに則り「先輩の賃金水準に追いつく」ために必要な原資を意味します。賃金構造維持分が確保されない場合には、たとえ自分の賃金は上昇していても、「先輩の賃金水準に追いついていない状態」となる結果、賃金水準の低下が引き起こされてしまったことになります。各職場で、労働者各個人の賃金を、年齢や勤続年数の順に並べていくと、年齢や勤続年数が増えるに連れて賃金も上がっていき、ほぼ右肩上がりのカーブが描かれます。その姿は、必ずしも1本の線で代表されるわけではありませんが、そこで、おおよその傾向を線で示したものを「賃金カーブ」といい、それらの賃金カーブを内包した現在の賃金分布全体の姿を賃金構造といいます。
これは、年齢と勤続年数にともなって、仕事のスキルが上がる一方、生計費も上昇することに対応しているもので、一般的には「年功カーブ」とも呼ばれています。
欧米のように賃金が主として仕事や職種・職務で決められている場合や、成果主義型賃金体系の一種である役割だけで賃金が決められる制度の場合には、賃金は右肩上がりのカーブにはならず、職種あるいは仕事・役割ごとの水平線状になります。
そこで、賃金構造というのは、長期的な雇用を前提に、職務経験や企業内教育を通してスキルアップし、それが地位や処遇の改善に結びつくという日本型の人事処遇システムを端的に示すものといえます。
一定の賃金カーブを内包する賃金構造の背景にあるのは、ある一定の仕事に対してその都度賃金を支払うという考え方ではなく、スキルアップと生活スタイルの変化に対応しながら、長期的な雇用関係全体を通じて、賃金を支払うという考え方であり、定年制もその中に含まれます。
働く側にとっては、将来の生活設計を立てやすく、経営側にとっても、安定的な人材確保と企業内教育を通じた労働生産性の向上をはかりやすいという、労使双方におけるメリットが、そうした仕組みを支えてきたと考えられます。そこで、賃金構造とは、賃金分布の現状を示すだけでなく、若年者にとっては、その企業において自分が将来辿って行くだろう賃金のおおよその姿を示しています。
これは、経営者が長い経過のなかで自ら作り上げてきたものであり、職場に賃金表や定期昇給制度がない場合でも、この賃金構造は事実上ルール化されているものと考えられます。すなわち、賃金構造というのは、その企業における人事処遇のルールを示したものといえます。
成果主義の掛け声の下に、「年功賃金の見直し」が進められています。個々の実情は様々ですが、多くの場合、それは、賃金決定に占める評価部分を拡大する一方で、年功的部分の縮小・見直しはかろうとするものであり、その程度に様々あっても、年功的要素を完全に否定した制度というのは、ごく少数に過ぎません。また、どんな賃金制度にせよ、家族を含めた生活費を充足する賃金水準は、絶対に確保される必要があります。従って、いかなる賃金制度見直しの動きのなかでも、賃金構造の意義は、基本的には変わっていないといえます。
勤続年数が1年伸び、年齢が1歳増えることに伴う賃金の上昇は、いますでにある職場のルールに基づくものですから、その上昇幅も職場ごとにほぼ決まっています。それは、職場に賃金表があればすぐに算出することができますが、賃金表がなくても、おおよその賃金カーブを描くことによって、おおよその数字をはじき出すことは可能です。
この上昇分をきちんと確保し、全体としての賃金カーブを維持していくことは、現行の職場のルールを守ることであって、こうしたルールが損なわれるようなことになれば、みんなで協力して仕事をするといった職場の雰囲気は生まれません。経営者がこの賃金構造を維持しないとしたら、自ら作ってきたルールに反することになります。
すでに触れたように、多くの組合員は仕事を通じたスキルアップによって先輩の仕事レベルに追いつき、それに見合った賃金が支払われることを期待して仕事をしているのですから、職場秩序を反映した賃金カーブを維持することは、職場ルールを維持する=職場のモラルを維持することであり、経営として当然負うべき責任といえます。
定期昇給と昇格昇給を合算したもの、つまり勤続1年と年齢1歳が経過した後の所定内賃金の増加額が「1年1歳間差」です。
各年齢に一人ずつ実在者がいる場合、「1年1歳間差」の賃金上昇があっても労務コストは変わりません。最上位者の退職と最下位者の採用による入れ替えの結果、各個人の賃金は上がっていますが、その企業の賃金総額は1年前と変わらないのです。すなわちそこでは、定期昇給原資は、退職と採用によって、年齢的な労務構成の変化がなければ、昇給コストが吸収されるという意味で「内転原資」の性格を有しています。
同じように、家族構成や任用構造も一定であると考えれば、昇格昇給も含む1年1歳昇給分も、直接的には労務コストに影響しません。
実際には、労務構成の変化に伴い、これら昇給原資も労務コストの増減をもたらします。とくにここ数年間は、「団塊の世代」層の勤続年数増加が労務コスト増加の大きな要因になり、中高年層の賃金構造見直しの大きな背景となっていましたが、逆に2007年以降は、その世代が定年退職を迎えることになり、その分のコスト減少が見込まれています。
近年ブームのように、数多く賃金制度の改訂が実施され、そうした全体の動きの中で、「成果主義」という言葉がスローガンのような役割を果たしてきました。そうした全体の動きに共通する特徴は、従来型の年齢・勤続あるいは潜在的能力といった年功的な要素に基づく「定期昇給」部分の縮小をはかりながら、賃金決定要素として、労働者個人が担う仕事・役割や成果を重視するという考え方の下に、従来の賃金構造を変更していくという点にあります。但し、こうした変更は、現行の賃金構造維持分を確保した上で行われるべきものであることは言うまでもありません。
ここ数年の間に実施されてきた賃金制度改訂における特徴としては、内容も程度も様々ですが、およそ次のような点を挙げることが出来ます。@目標管理制度(評価面接制度)の導入
A年齢や勤続年数によって昇給していく属人給(年齢・勤続給)の縮小・廃止
B評価給(能力給)における定期昇給的な部分の縮小
C従来の職能資格等級を大くくり化(職群化)と、昇給における昇格昇給部分の拡大
D昇給停止上限水準の設定
賃金構造とは、これまで触れてきた通り、長い経過の中で作り上げられてきた職場あるいは企業のルールであり、その変更は容易なことではありませんが、企業をとりまく環境が大きく変化し、企業の存続にとって、その必要が生まれている以上は、労働組合として積極的に関与していくことが求められている、というより、労働組合の関与こそ求められています。賃金構造の意義を、過去、現在、将来にわたって理解し、それについて経営に直接提言できる労働組合の能力向上が求められています。
また、「成果主義」に基づく賃金制度の改訂から数年を経て、当初予想されなかった様々な問題点に対する是正が、新たな課題となっている場合もあります。
成果主義の考え方は、労働者個人の自己実現要求や仕事に対する充実感を満たすことによって、より多くの成果をあげることを目的とするものです。経済のグローバル化を背景に、サービス化が進行し、製造業でも非定型的な仕事が中心となっている職場では、労働者自身が成果主義に基づく報酬体系を求める場合もあります。
しかし、製造現場などチームワークが重視される仕事や作業の標準化が進んでいる仕事に対しては、成果主義の考え方そのものが適しません。あるいは、人件費コストの抑制をはかることを主たる目的として、「成果主義」の名前だけを借りたような制度の改訂・導入提案も少なくありません。そうした状況を見極めた対応が求められます。
それまでは大手が中心だった成果主義型賃金制度の導入が、2003年以降、中小にも広がっていることがJAMの中でも指摘されています。「賃金構造の維持は経営の責任」という観点から、新しい制度によって、個人の賃金が、何らの移行措置もないまま、いきなり大幅に下がるような制度改訂や制度導入については、労働組合として反対せざるを得ません。
またそのように労使の検討が十分でない制度の改訂や新規導入は、その後の職場に無用の混乱をもたらし、企業活動にとっても悪い影響をもたらし兼ねないことを、経営に対して強く提言していく必要があります。
何れにせよ、賃金制度の改訂にあたっては、現在の実態、新しい制度の目的と趣旨、将来における影響や効果 ―― 等について労使で十分検討しなければなりません。
他方、厚生労働省の「労働経済白書」2008年版・2009年版は、行き過ぎた成果主義の弊害を問題として取り上げていますし、成果主義を巡る様々な問題点が指摘され、この間の賃金制度改訂ブームに対する反省と批判が盛んに行なわれるようになってきました。
何れにしても、職場の実情と現行の賃金実態を十分踏まえ、密度の濃い労使協議を図って行く必要があります。
1.評価制度について
(1)評価制度に対するチェック項目
1)最低規制(2)評価制度に関する留意点
2)評価の最大幅の設定
3)評価ランクにおける人員比率のチェック
4)評価基準の公表
5)評価結果の本人へのフィードバック
6)評価者教育への執行部の参加
7)苦情処理制度の確立
1)最終的にどのような分布図にしたいのか
2)評価基準は適切か。借り物でないか。職場の実状を反映しているか。職場の問題点を解決できる基準になっているか
3)評価者を含め、職場から信頼される運用が出来るか。
2.成果主義型賃金制度について
(1)成果主義型賃金制度の導入要件1)仕事の独立性が高く個人の成果が明白であること(2)成果主義型賃金制度への具体的対応について
2)成果を上げる条件が公平かつ十分に与えられていること
3)個人の仕事の成果が直接的金銭価値に結びつくこと1)導入の目的が、単に組合員の間に格差を付けるものでなく、組合員の仕事に対する満足感を高めると言い切れるか
2)導入されようとする職場の作業内容が、(1)の1)〜3)で示した項目(成果主義型賃金制度の導入要件)を満足しているか。
3)評価方法が適切であるか。特に成果の判断基準となるべき指標(評価基準)が客観的で適切なものであるか(上記1.(1)「評価制度に対するチェック項目」に基づく検討を行う)
4)本人希望による職場移動行われているか。移動可能人員以上の希望があった場合の選択は客観的で公平か。
5)収益目標を部門間に配分する仕方が公平か
6)個人や集団の目標達成の評価に当たって、個人または集団の責に帰せられない要素をどこまでカウントするか
Q9−5.年俸制とはどういうものですか
―― 厳密な意味での年俸制は、「賃金の全部または相当部分を労働者の業績等に関する目標の達成度を評価して設定する制度」(菅野和男「年俸制」日本労働研究雑誌408号)と解されています。
年俸制は、1年間にわたる仕事の成果によって翌年度の賃金額を設定しようとする制度ですから、労働時間の量(割増賃金)を問題とする必要のない管理監督者や裁量労働制適用労働者に適した制度といえます。
しかし、導入に当たっては、労働協約・就業規則の変更が必要であり、変更の合理性が問題となります。当然、目標設定とその評価についての手続きと苦情処理の手続きが公正なものとして制度化されていることが必要だと法的にも解釈されていることに留意し、前項「 9−4.2.成果主義型賃金制度について 」に準じた対応が必要となります。
年俸額は、毎年の個別交渉によって決定されるので、業績評価による個別的引き下げが起きることにも留意し、その場合の限度額を明記する等の協約が別途必要になります。さらに、一般的かつ一様の引き下げも考えられます。この場合は、年俸制の枠組み変更が必要となり、そのための労使交渉が必要となりますが、個別的引き下げと一般的かつ一様の引き下げの違いについての区別が明確になるような仕組み、年俸額の個別的変更に関して、労働組合が職場別、ランク別にその評価内容を把握し、評価結果の分布等をチェックできるような制度が重要になります。